ピアノの音色はタッチで変わるか -楽器の中の物理学- 吉川茂著

ピアノ習い立てであった中学生の頃にはタッチでピアノの音が変わるはずはないと思っていた。
同じスピード同じ強さで打鍵すれば、ハンマーがピアノ線を叩く動きは同じでそこから導き出される音は同じである、と思っていた。
しかし!
タッチで音は変わるのである。

大体、音を作る要素をハンマーとピアノ線の接点のみに求めるのは間違いだった。
例えば体重のある人間が弾くピアノ音はやはり太い。
音は様々な要因によって形作られるようだ。
もしかしたらピアノ足のキャスターの向きをピアノ線の向きと揃え目にするだけでも音は変わるのかもしれない。
椅子の高さの違いで身体の重さが鍵盤に掛かるニュアンスを変えただけでも音は変わるのかもしれない。
タッチで音が変わるのは、指先を通して肉体と楽器の繋がりを変化させるからだ。
厚ぼったく当てればそれだけ楽器と身体が密接に絡み、太い音がする。
よくよく考えれば当たり前の事だったのだが、中学生の自分はそこまで思いが至らなかった。